フランス人の夫との出会い
夫とは2000年の6月にパリで知り合った。
仕事で英語とフランス語を使うので、前年からの年次休暇も合わせて1ヶ月の休暇を申請してみた。まだ入って一年しか経っていない職場だったが、語学力向上の名目だったから上司も納得してくれて、私の休暇代理のスタッフを捜すように指示してサインをくれた。
パリには以前も住んでいたことがあったから土地勘はあったし、ステイ先は現地に着いてから学校の近くにでも借りようと思っていた。
ソルボンヌの短期語学は長年やりたいことリストに入っていて、やっと念願が叶ったのだった。
最初の数日は学校の近くにホテルを取っておいて、まずは学校でレベルテストを受けると同時に滞在先の情報を集めることにした。
学校の近くといってもリュクサンブール公園を挟んだ先の15区にあるホテルだったから、5区にある学校までは徒歩よりはメトロかバスを使う距離だった。
スーツケースも大きかったし空港まで迎えに来てもらえるサービスを日本で頼んでおいて、夕方無事ホテルに到着した。
3つ星だから本当はもう少し大きなホテルを期待していたんだけど、立地は抜群だった。
翌朝、1階で待望のクロワッサンとカフェオレ、それに卵やハムにヨーグルトとキウイなども揃った朝食をとっていると、入り口からボンジュール言いながらツカツカと勢いよくフロントへまっしぐらに入ってきた男性がいた。
フロントは私の後ろにあるツイタテの向こうだったから姿は見えないんだけど、その男性が夕べ私のチェックインをしてくれた若いアルバイト君を怒鳴り始めた。どうやらアルバイト君、何かミスってしまったらしい。
朝食をとっていたのは私だけで、しかもツイタテで隠れていたから客がいることに気づいていなかった。
バイト君が叱られしばらくして穏やかに会話しているのが聞こえてきた。夕べの報告をしてるのかな。その男性、今度はキッチンのスタッフに挨拶するため入って行こうとして初めて私がそこにいたことに気づいた。こちらを見ながら挨拶しながらだったからドアを開けそこねて頭をゴッツンしてしまった。すごくばつが悪そうに苦笑いしたその男性が、私の今の夫だ。
彼はそのホテルのディレクターだった。
学校へ行くと初めはホームステイを勧められたが、日本人を希望するホストファミリーは日本人がお人好しなのをあてにしているケースが多々あるのはカナダで経験済みだった。何となく気乗りがせず、以前クレルモンフェランにいたときのように学生寮があったらと希望を伝えてホテルに戻った。
彼はフロントに座っていて私の1日がどんなだったか、どうしてパリに来たのかと聞いてきた。彼にしてみればすべてのお客様に対してする質問だが、私は短期間中にフランス語を最大限に話す格好の練習場とばかりに喋り続けた。彼はそれを楽しんでいるように私の話に付き合ってくれた。
バイト君に大声あげてた人とは思えないほど、優しい目をしていた。