ジョイス

モントリオールに滞在中、ジョイスという香港からの留学生の女の子と仲良くなった。今は香港情勢が話題になっているから、彼女のことを思い出す日も多い。

 

ジョイスとはモントリオール中心街にある語学学校で知り合った。彼女は英語力アップのためにモントリオールに来ていて、背が高く、眼鏡をかけ、化粧っけがなく、髪はショートカットで気さくで明るい女の子だった。女の子と言っても私と同い年の当時26才の女性だけど。

私は最初のホストファミリーと相性が合わず、ジョイスが何かと相談にのってくれ、彼女の紹介で会ったファミリーの家に引っ越した。

香港では皆が通称のイングリッシュネームを持っていることはジョイスが教えてくれた。

 

学校にもすっかり慣れた頃、クラスで茶道の紹介をしたいと思った。

母が日本から茶道具一式を送ってくれたのだが、届いた茶碗は割れてしまっていた。小包を開けているところにジョイスもいて、どうしてもっと割れないように梱包しなかったのかと言っている。

母は私がカナダへ経ってからは毎日泣き通しで、妹が娘がまるで1人しかいないかのようだったとのち語ったほど私のことを心配し、何かにつけて日本のものを送ってくれていた。

そんな母だから割れないように念入りに梱包してくれていたのに、ジョイスのデリカシーのなさに腹が立って悔しくて「ちゃんと梱包してくれたけど割れちゃったのよ‼」とは言ったものの、涙が溢れてきてそれを隠すために自分の部屋にしばらく閉じこもった。

皆は私がホームシックだと思ったらしい。それもあるけどジョイスの言葉に怒っているとは、紹介してもらった手前あまり言えなかった。

その後、他の茶碗を使って無事にお点前を披露することができ、クラスメートたちは見たこともない日本文化に感動しとても喜んでくれた。

 

ジョイスは学校が終わってから私のステイ先で家事のアルバイトをしていた。学費の足しにしていたのである。

私も留学のために3年の間社会人として働いてきたからとても共感できた。

彼女が来ている日は遠慮して帰宅時間をずらしていた。

だけど、あの一件のあと一度だけジョイスがいる時間に帰宅した。

何か仕返ししたいという意地悪な心があったのだけど、すぐに後悔した。

彼女の気まずそうな感じが伝わってきた。やっぱりこれからは気をつけようと思っていたところをホストマザーから注意された。

ジョイスが言いつけたのかな?と思った。以来、自然と彼女も私に積極的に話しかけてくることはなくなった。

顔を合わせると話をすることはあったけど、遠慮のない彼女の話し方はやっぱり苦手だった。その反面それも文化なのかしらと香港にある種の興味が湧いた。

 その後また引っ越して大学へ移った私がジョイスに会うことはなくなったが、彼女に出会ったことがきっかけで数年後に香港を訪ねることとなった。

 

出会いってほんとうに不思議だな~。