フランスで会った長髪美人
日本に帰ってきてもうすぐ9年になろうとしている。
帰国後しばらくして夫とフレンチカフェをオープンした。
フランスではパリで3年過ごし、娘が生まれてすぐにルーアンというパリから電車で1時間ほどの街にホテルを購入し、夫と経営していた。
夫はイギリスのホテル学校を経て20年近くホテル一筋だったから、いずれ独立したいと思うのは自然な流れだった。
私たちのホテルは駅と中心街の中間にあり、3つの美術館や公園のすぐ近くで観光客にもビジネスマンにも人気の場所だった。
ある日の午後、いつも通りにフロントで番をしていると、腰よりも長いストレートヘアの綺麗な日本人女性が現れた。私たちのホテルは日本のガイドブックにマダムが日本人と紹介されていて、韓国語版もあったので日韓のお客様がチラホラ来てくださった。
この長髪美人のお客様は、近くのアリアンスフランセーズで明日試験を受けるためにパリからルーアンに来られたということで、夜になる前に付近を散策したいという。
私の大好きな大聖堂近辺の細道を地図上に線を引きながら説明したのをよく覚えている。
後日パリから丁寧な礼状をいただいた。ホテルでの居心地の良さと私の散策道順が完璧だったと褒める内容だった。
ホテル業は24時間ノンストップで大変だけど、お客様に喜んでいただけると本当に嬉しい。
その時の手紙は今も大切にとってある。
日本でオープンしたカフェにその時の日本人とと同じような髪を持った女性が現れた。会計時に、フランスでホテルを経営していた頃同じような美しい髪の女性が来られたという話をした。彼女は「それ私です!」ビックリした私は一瞬言葉も出なかったが「キャー‼」と叫んでふたりで鳥肌立てて跳び跳ねた。その様子に周りの人や夫も目を丸くしていた。
彼女は引き続きパリに住んでいるが、父親が亡くなられたので帰国していた。相続の関係でカフェ近くの証券会社を訪れ、私たちのカフェのことを聞いて来てくれたらしい。
手紙を今も大切にしていることを伝えると、彼女は嬉しそうに再度あのときの私の案内を褒めてくれた。
世界は広いようで実は狭いんだなあと、その時つくづく感じた。